正しく知ろう!牡蠣とヒトとノロウイルスの関係
栄養が豊富で美味しい牡蠣。けれども、しばしば「牡蠣はあたりそうだから怖い」という声を耳にします。しかし、牡蠣が原因の食中毒は実際それほど起きているわけではないのです。
とはいえ、「牡蠣にあたった」経験をお持ちの方も中にはいるかもしれない。ただし「あたった=下痢した」原因が食中毒によるものではない場合もあるので注意が必要です。
それは、時間をおかず症状がでたときには、食中毒ではなくむしろ、体質として牡蠣アレルギーを持っている(前日に
食べたモノが原因の場合もありますので、症状がひどい場合は医者に相談しましょう)、とかんがえたほうがいいです。ほかの食物アレルギーと同じくアナフィラキシーショックを起こすケースもある。しっかり加熱した牡蠣を食べても同じ症状を繰り返す場合はアレルギーの疑いが強いです。
いっぽう牡蠣による食中毒の原因となるノロウイルスには潜伏期間があり、ウイルスを取り込んでから1日~2日経過して発症する。そして何よりも、ノロウイルスは下記を食べることによってよりも、圧倒的にヒトから感染するケースがほとんどなのです。
ノロウイルスは11月から12月をピークに冬の季節を通じて流行し、おう吐や下痢などの症状をもたらす。以前は「お腹にくる風邪」「お腹のインフルエンザ」などという言い方もされていました。だが、牡蠣だけでなく、ホタテ、タイラガイ等を含む二枚貝によるノロウイルス感染を原因とした食中毒は10%未満。むしろ主にヒトを介した感染原因が70%をしめます。
また、2017年中に起きたノロウイルスによる食中毒事件で、原因が牡蠣と断定されたものは一つもなく、むしろ調理者がウイルス感染している例が多くみられました。
こうしてみると牡蠣は、ついノロウイルス感染の「主犯」にされがちなのだが、実際は他の感染要因が大きいと考えられます。
では、ノロウイルスを過度に恐れることはなく、牡蠣を美味しく食べるにはどのようなことに気をつければよいでしょうか。そのことをきちんと知るには、ノロウイルスがどのようなウイルスでどうやって人に感染するかをみておきましょう。
ノロウイルスの大きさは細菌よりもずっと小さい30~38nm(nmは1mmの10万分の1)。インフルエンザウイルスの3分の1ほどの大きさで、ウイルスの中でもごく小さい部類に入ります。
他のウイルスと違ってアルコールによる消毒が効かない。代わりに次亜塩素酸ナトリウムの含まれた家庭用剤を60倍に薄めたものを使い消毒します。10個~100個程度のウイルスがヒトの体内に入ることで感染し、胃のすぐ下、十二指腸で増殖します。ノロウイルスはヒト以外の動物で増殖することはなく、ヒトの体内だけで増えます。
こうして増殖したノロウイルスは、糞便や吐いたものから飛び散ったまま十分に洗浄されず手や口につき、あるいは乾いた後のホコリに交じって吸い込まれるなど、ヒトを介して広がっていく。あるいは排出物が下水に流れ込み川から海にでて、二枚貝に取り込まれます。貝の中でウイルスが増殖することはありません。ノロウイルスは人をベースにして循環しているのです。
もっと厄介なケースがあります。それはノロウイルスに感染しながら、全く症状が出ずに大量のウイルスを排出している「不顕性感染」(健康保有者)とよばれる人たちがいます。胃酸が強く、腸内フローラのバランスが良い人は免疫力が高く食中毒の症状になりにくいという説もあります。この場合、感染に気づかないまま、発症者ほどではないものの、一億個前後のウイルスを体外に出している。それがトイレで排便時のわずかな飛沫などを通じて、ウイルスがごく小さいため指紋の間などに入り込みます。そこで手洗いが不十分なまま調理に従事してしまうと新たに食中毒を引き起こす恐れもあります。本人が気づかずに広げてしまっているというケースも十分にありうるのです。
それにしても、牡蠣だってやはり感染源じゃないかといぶかる向きも。牡蠣をはじめ二枚貝はノロウイルスを内蔵に取り込んで濃縮する。市販に流通する貝類でノロウイルスの検出率が一番高いのはシジミ。続いて貝柱が寿司種になるタイラガイ、ホタテ、牡蠣の順。このうち内臓部分を生で食べる機会が多いのが牡蠣。そのため、これまで感染源としてクローズアップされてきました。
しかし、生で食べる牡蠣は、現在、食品衛生法に基づく厚生労働省の通知により厳しい条件が設けられています。
生食用の養殖水域は影響を受けないよう、下水の流れ込む河川から離れた海域に設置される。生食用を養殖する海域は限定され、海水の細菌検査をクリアしなければ生食用として出荷することができません。
生食用の牡蠣は出荷の際に、紫外線で浄化された海水に18時間~20時間ほど牡蠣をつけ、内臓にあるものを吐き出させます、この工程でノロウイルスを除去することはできません。そこで牡蠣そのもの、内臓の部分の検査を受ける。そこから食中毒を起こす細菌やウイルスが検出されなかったロットのものが生食用として出荷されています。
万一残念ながら、検体の牡蠣の身からウイルスが検出された場合は加熱用となります。
したがって、「加熱用」と書かれた牡蠣は十分に加熱して食べなければいけません。牡蠣の内臓にある中心部を85~90℃以上で90秒以上加熱することが必要です。牡蠣は生でも食べるのだからと油断せず、加熱用はしっかりとフライや鍋物・シチューなどにして火を通すようにしよう。殻付き牡蠣の加熱用は殻が開いてから1分程度が目安とまります。
生産者だけでなく、牡蠣の加工業者や牡蠣を出す飲食店も衛生管理に非常に気をつかっている。牡蠣だけでなくヒトの衛生管理が決定的に重要です。
海遊では牡蠣を取り扱う従業員はもちろん、事務所などすべての従業員に1か月おきの検便によるノロウイルス検査を実施しています。
また、仙台市内で牡蠣を提供するある飲食店では3か月に1度、やはり同じく検便検査をおこなっており、トイレも従業員用と客用とを分ける徹底ぶり。お客様がウイルスを持ち込んでしまう可能性を考えた上のことです。
この例は厚生労働省の通知によって推奨されている、リアルタイムRT-PCRブローブ法という、ウイルスの量を測ることのできる精度の高い検査法を用いている(この検査は人よりもわずかなウイルスしかもたない牡蠣で、その検査制度の高さを発揮している)。いくら検査をしても精度の低い検査法では見逃しが出て検査の意味がないのです。
また、この検査法はノロウイルス遺伝子の型を特定できるので、感染ルートの解明にも役立ちます。
繰り返しになりますが、牡蠣を安全に食べるために大切なことは、圧倒的に多い、ヒトとヒトとの間のノロウイルス感染をどう減らしていくのかなのです。
生産者や飲食店だけでなく食べる方自身も十分に注意してノロウイルス感染の拡大を防ぐ必要があります。
とはいえ、どんなに気をつけても感染リスクがゼロになることはありません。万一、家庭で感染してしまった、あるいは家族に感染者がでたら、どうしたらよいのでしょうか?
まず、かなり誤解されているのが、ノロウイルスが原因で命を落とすことはほとんどありません。ただし、幼児などが吐いたものをのどに詰まらせ窒息したり、お年寄りが誤嚥(ごえん)性肺炎を起こしたりするケースはありうるので、抵抗力の弱い人に感染を魏炉げないようにすることが重要です。
治すための抗ウイルス剤などはなく、対症療法になります。下痢などで失われた水分を経口補水液(スポーツドリンクを薄めたものなど)で補い、脱水症状にならないように気をつけましょう。
下痢止めなどは飲まないこと。ウイルスを早く体の外に出そうとする身体の自然な反応なので、下痢を止めることはむしろ逆効果です。
1~3日ほどで症状は収まるが、ウイルスの排出は3週間から1ヶ月ほど続くので、その間、しっかり衛生管理をする必要があります。
おう吐や下痢便のおむつを扱う時には、マスクをし、使い捨ての手袋・エプロンなどを使い、直接ウイルスにさらされないようにしましょう。おう吐物をふき取ったペーパータオルなどは家庭用塩素系漂白剤を薄めたもので浸してからビニール袋に密閉してすてるようにしましょう。
家庭用塩素系漂白剤を薄めたものを使い、トイレの清掃はこまめに。また、ドアノブや調理器具・食器なども同様に消毒しましょう。(塩素系漂白剤は色落ちや金属を腐食させる作用もあるので、長時間さらさず、しっかりすすぐかふき取る)
塩素系漂白剤を使えない場合、布地などは熱湯(85℃以上で1分間)煮沸消毒するという手段もあります。
カーペットなどはどうすればいいでしょうか。吐いたものを処理して、12日ほど経ってから、乾いたおう吐物がホコリとなって巻き上がり、集団感染につながったケースもあります。家庭用スチームアイロンをつかった消毒ができます。該当の部分の中心から半径約2メートルぐらいまでの範囲に約2分以上スチームを当てます。
感染するしないにかかわらず、日ごろから調理や食事の前、トイレの後の手洗いは石けんを使い、念入りに行いましょう。